先週発表された2月の米消費者物価指数(CPI)と米生産者物価指数(PPI)の前年比の伸びがともに予想を上回る結果となったことから、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)による6月利下げ開始の見方がやや弱まることとなった。同時に発表された2月の米小売売上高は予想を若干下回ったものの、前月に比べれば大きな伸びとなり、米個人消費の底堅さとインフレの粘着性があらためて確認される格好となったわけである。
その背景には、やはり米国の株価がなおも高止まりしていることが一つにあると見られる。今回発表のインフレ指標は2月分であり、同月は主要3指数とSOX指数がともに強い基調を続けていた。つまり、株高の資産効果が発現しやすかった2月の消費や物価のデータが強めに出るのは当然とも言え、そこは少々割り引いて見る必要もあろう。
皮肉なことに、足元ではパウエルFRB議長が議会証言で年内利下げの可能性について具体的に言及したことが、結果的に米株価を支えているところもある。FRBが利下げに前向きな姿勢を示すと、米株価が強含んで米個人消費が拡大し、かえってインフレ鈍化にブレーキをかける可能性がある。また、利下げを理由にドルが弱含みとなれば、米国の輸入価格は上昇し、なおさらインフレ圧力は強まりやすくなる。
逆に、利下げに後ろ向きの姿勢を見せると、米株価が調整含みとなって米個人消費が減退し、米国の景況感が悪化することで行く行くはドルが売られやすくなる。結果、米国の輸入物価が上昇し、それがインフレ圧力を強めればスタグフレーションの懸念が台頭することにもなりかねないから、ことは非常に複雑である。それだけに、FRBから市場へのメッセージの投げかけ方も実に難しい。
まして、そろそろ米大統領選を控えた候補者の出方に対する市場の思惑も徐々に強まってくる。今秋に向けて米景気の底堅さと株高が継続すれば、それは現役のバイデン氏に有利。同氏は、今月8日にペンシルバニアでFRBのことを「金利を決める小さな組織」と呼び、「金利がもっと下がるのは間違いない」などと演説した。
奇しくも、対抗馬のトランプ前大統領は「利下げをすれば民主を助けることになる」とメディアのインタビューで述べており、当然、バイデン氏にしてみれば“小さな組織”に対して利下げ要請の圧力をかけたいところであろう。
今後、選挙戦の過程で仮にトランプ氏優勢との見方が強まれば、市場は大胆な減税への期待を強め、結果的に米株価は強含みになりやすく、それが皮肉にも現役有利に働く可能性もある。また、移民への規制強化を声高に叫べば、米国内の人手不足状態が深刻になるとの懸念からインフレ圧力が強まりやすくなる。まだ、だいぶ先のことではあるものの、こうしたことも一応は頭の片隅に置いておきたい。
兎にも角にも、まずは本日から行われる日銀金融政策決定会合の結果に対する市場の反応に大注目。マイナス金利の解除と長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の撤廃は「既に織り込み済み」というのが市場のコンセンサスとなっており、肝心はその後の政策運営の方針ということになるのだろうが、市場は「なおも緩和的な金融環境が維持される」との見方に傾いている。
ドル/円については、現在149.44円処に位置している21日移動平均線(21日線)が当面の上値抵抗となるかが一つの焦点となろう。逆に、ユーロ/ドルは21日線(現在は1.085ドル処)が下値をサポートするかどうかに注目したい。20日まで行われる米連邦公開市場委員会(FOMC)では、参加メンバーらによる金利予測分布図(ドット・プロット)も公表される。前回よりもタカ派寄りと市場が受け止めれば、ドル/円が一旦150円処を試す可能性も否定はできない。
(03/18 07:00)
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